「総則第6項」について(三鷹の公認会計士・税理士のブログ)
2022/06/20
先日(R4/4/19)、総則6項の適用の確定判決が出ました。
相続関連としては、注目に値する内容で、様々なところで述べられていますが、整理のために記載します。
当該案件は、相続について、対象不動産を路線価で評価し、債務を消極財産として控除し、相続税額を算定したところ、相続税が発生しなかったというもので、形式上は極めて普通の相続案件です。
これに税務署が「総則6項」通達を適用し、相続税額240百万円の更正処分を課したというもので、この通達の適用について最高裁まで争われたものです。
「総則第6項」とは「財産評価基本通達第1章総則6項」のことで「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という通達の通称になります。
ここで「通達」について解説しますと、通達とは、法令(法律・政令・省令)とは異なり役所の行政内部文書であり、役所内の上意下達を文書にしたもので、役所内における行政規則になります。
従いまして、行政以外は拘束されることはなく、通達による取扱いに不服がある場合などは裁判所に訴えることも可能で、また、裁判所は国の司法権に属し、行政とは完全に分離した機関ですから、通達には拘束されず、訴える納税者も当然通達には拘束されません。
最高裁判例なので、極端に行き過ぎた行為に対する判決だとは思いますが、確定した前例となったので、今後、相続対策に留意する必要があると思います。
事実関係は下表のとおりです。
【主な事実関係】
平成21年1月:被相続人は銀行借入(630百万円)により甲不動産を837百万円で取得
平成21年12月:被相続人は銀行借入(378百万円)、相続人からの借入(47百万円)により乙不動産を550百万円で取得
平成24年6月:相続開始
平成25年3月:乙を510万円で売却
相続税額計算:相続人は相続税の評価通達(路線価)により甲を200百万円、乙を133百万円と評価し、
被相続人の借入金等の債務と基礎控除により相続税額「0円」とした
平成28年4月:税務署が、甲の価額を754百万円、乙の価額を519百万円、相続税課税価額を888百万円として、相続税240百万円とする更正処分を行う
平成28年7月:相続人が更正処分に不服があるとして審査請求
平成29年5月:国税不服審判所が相続人の審査請求を棄却
平成29年11月:相続人が相続税更正処分などの取り消しを求めて東京地裁に提訴
令和元年8月:東京地裁判決、相続人が敗訴
令和2年6月:東京高裁判決、相続人が敗訴
令和4年4月:最高裁判決、相続人が敗訴
【不動産評価】
路線価:
甲不動産:200百万円、乙不動産:130百万円、合計:330百万円
取得価額:
甲不動産:837百万円、乙不動産:550百万円、合計:1,387百万円
不動産鑑定評価:
甲不動産:754百万円、乙不動産:519百万円、合計:1,273百万円
この問題点というのが上表の【不動産評価】を見てもらえばわかると思いますが、相続税の評価の基本となる路線価と取得価額が大きく乖離しており、約4倍の差がついていました。
通達6項は、所謂「伝家の宝刀」であり、租税法の「平等原則」によりむやみやたらと使われることはないと言われていますが、今回適用されたのは、次の点で行き過ぎがあったのではないかと言われています。
まず、判決では時価が路線価を上回るだけでは著しく不適当ではないとし、そのうえで「借入により大幅な評価減が可能な賃貸不動産を節税期待で購入する」という対策自体が著しく不適当だとしています。その行為の結果、他の納税者との間での納税負担の公平性を著しく害したということのようです。
ここまで極端な例は稀かとは思いますが、先日うちに来た不動産投資(タワマン購入)の営業担当者が「タワマンを借入で購入すれば節税対策になるので、私の顧問先に対象となるようなところはありませんか?」と言っていました。今回の最高裁の判決が出る前でしたが、高裁で結果が出ていたので、そのことを伝えましたが、ご存じないようでした。
確かに不動産の評価は、路線価で評価される場合が多く、路線価は公示地価の8割が目安になります。そのため、現金で不動産を購入した場合、相続財産の価額が2割減となります。さらに賃貸用物件の場合、借地権割合・借家権割合なども考慮されるため、さらに節税効果が大きくなります。
節税のために普通に行うことですが、極端に行き過ぎるとマズイという例ですね。
でも、これからは借入をして賃貸不動産を呼応入するというのは、調査の重点項目になりそうな気がします。